すべての行程に、ものすごく緻密な管理が必要で、 ほんのちょっとしたことで、すべてが台無しになるような世界である。 酒造りが始まると、 農口さんが、一晩通してゆっくり眠ることはない。 場合によっては、赤ちゃんを育てるよりもきめ細かなケアをしながら 「麹菌」と「酵母菌」をコントロールしていくからだ。
· この段階によって、お酒の味が決まります。 もう最後は温度をうんと下げて、 要するに、やたらと酵母に元気を持たせると、酒が荒くなるんです。 これはほんと、要するに麹が分解していき、 人間の感じる旨みも酵母がボコボコ食ってしまって、 アルコールにしてしまうわけですね。 それを温度を抑えて、酵母を抑えつけるんです。 そうすると、分解が後半進んできて、まろやかな味になる。 そのときに、絞るんです。 このふたつの菌を、いかにバランス良くコントロールするか、なんですよ」 と農口さん。
· 私たちが感じる日本酒の旨みみたいなのは麹菌が作ってくれたもので、 気持ちよくなるアルコール分というのは酵母が作ってくれたもので、 それをうまいバランスにすると、おいしい日本酒ができるというのだ。 つまり、農口さんは、 タンクの中にいる、目には見えない二つの生物をうまく操りながら、 彼らにお酒を造らせているのだ。 「麹菌にしろ酵母菌にしろ、目には見えないんですけど、 またその目に見えん菌を利用して、 対話しながら操作できるくらいにならなかったら、 酒造りは、やっぱりだめなんですね」
· 日本酒の澄んだ輝きや、甘い香りに、神聖さを感じる。 農口さんの日本酒をスタジオでいただいた。 芳しい。甘くて、深くて。 そして、喉ごしは気持ちがよく、後味はさっぱり。 こんなに日本酒が美味しいと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。 ふたくち、みくち、とついつい、止められなくなってしまったのも、 ふたつの菌と、 農口さんの絶妙なチームワークの成せる技なのだと思った。
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